


2015
AIR Nordland / アーティスト・イン・レジデンス
“ AiR Nordland” Nordland Kultursenter
ヌールランカルチャー センター(ノルウェー)
2015
AIR Nordland / アーティスト・イン・レジデンス
“ AiR Nordland” Nordland Kultursenter
ヌールランカルチャーセンター(ノルウェー)


2015年、ノルウェー北部の町 Bodø にてアーティスト・イン・レジデンスに参加。フィヨルドに囲まれた土地を自転車と徒歩で巡り、風景の取材と土の採取を行った。白夜のもとで体感した自然と人の距離感、日常と非日常の反転は、土地の記憶を内包する素材としての「土」への意識を更新した。本滞在では、現地でのフィールドワークを基にした絵画制作とオープンスタジオを通じ、異なる風土における風景観の比較と再構築を試みた。

2015年夏、ノルウェー北部 Bodø にある Nordland Cultural Center のアーティスト・イン・レジデンスに滞在した。日本国内では、古い街道や山岳信仰、土地に根ざした風習や歴史を辿りながら制作を続けてきたが、海外の風土や自然観と向き合うことは初めての経験だった。旅行ではなく、一定期間その場所で生活し、制作することによって、日常の感覚がどのように変容するのかを確かめたいという思いが、この滞在の出発点にあった。
事前に情報収集を試みたものの、Bodøという町の具体的な像はなかなか掴めず、ほとんど白紙に近い状態で現地に向かった。結果的にその不確かさは、現地での経験をより直接的なものにしたように思う。到着した時期は白夜の終盤で、深夜になっても空は完全には暗くならない。時間の区切りが曖昧になる感覚は、生活のリズムを狂わせる一方で、風景と向き合う時間を引き延ばしていった。
滞在中は自転車と徒歩で取材を行い、多い日には50kmほど移動した。フィヨルドに囲まれた海岸線、森の中の小道、使われなくなった漁師小屋や牧場の風景は、どれも映画のワンシーンのように感じられた。しかし地元の人々にとってそれらはごく当たり前の日常であり、その温度差に何度も戸惑わされた。日本で「特別」と感じてきた風景の捉え方が、ここでは通用しない。そのズレこそが、この土地を理解するための入口だったように思う。
取材の合間には、採取した土を乾燥させ、ふるいにかけ、写真資料をもとにドローイングを重ねた。湿度の低い環境では、土は驚くほど早く乾燥し、日本とは異なる質感を見せた。その違いは単なる素材の差ではなく、土地が内包してきた時間や環境の積層として画面に現れてくる。
制作終盤にはスタジオの都合で会議室に制作場所を移すという予期せぬ出来事もあったが、それもまた滞在制作の一部として受け入れることになった。環境の変化に身を委ねながら制作を続けるなかで、自然と人との関係性が、日本とは異なる形で現在も生き続けていることを強く意識するようになった。
このレジデンスは、異国の風景を描いたという以上に、自分自身の「日常」の輪郭を外側から照らし直す経験だった。日本とは風土も言葉も異なる場所で育まれた日常に触れることで、自らの制作の足場がどこにあるのかを、あらためて確認する時間でもあったように思う。ここで得た視点は、帰国後の制作に静かに、しかし確実に影響を与え続けている。





















